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「俺の、私の、弊社の案を採用して頂き、ありがとうございまスゥゥゥ」
あるオフィスの中、ずんぺいはニタニタと気持ち悪いウォンスマを浮かべながら電話で話をしていた。
何やら重要な商談をしているらしい。
「アッアッアッ、弊社の口銭は15%頂くだで、ただ乗りはダメだで……。社長の会社は残念ながら与信がございませんのでこれぐらいの利益は頂きまスゥゥゥ」
なぜこいつは客に自社の口銭率をばらしているのか、なぜ敬語が使えないのか。
ツッコミどころ満載のダメ営業だが、不思議とずんぺいはそんな態度で営業成績を伸ばしていた。
今回もまた大口の案件に漕ぎ着けたのだ。
「いやーやっぱりオラはすごいで?営業はできる、与信も知ってる?口銭の意味も分かる?なっかなかいないよこういうのは。」
電話を置いたずんぺいは若い社員にマウントを取り始める。
ずんぺいはセクションの中でも最年長、勤続10年のベテランだ。
周りの社員は苦笑いしながら、自分の作業に没頭している。
「どうだで?おまえもオラのファンになっただで?」
ずんぺいは、定規で若い社員を小突く。
小突かれた社員は苦笑いしながら頷き続けた。
「近頃の若い人は、こうもっとやってやろう、頑張ろうという気持ちは無いんですかねえー。点数は10点とさせていただきまスゥゥゥ。」


「いやぁーずんぺいさん流石っすねー。おしゃべりしている間に営業したらもっと成績上がりますよ?ずんぺいさんお話が長いですから」
ある若い社員がずんぺいに話しかけた。
最近めきめきと力をつけ、ずんぺいに負けない程目立っているS氏だ。
「ケイゴ…トシウエ…オラ、オハナシナガクナイ……コレガオラノスタイルダデ……」
過去のトラウマに触れてしまったのか知らないがウォンツモードになるずんぺい、そこにS氏が畳み掛ける。
「というより、敬語使えてないのずんぺいさんじゃないっすか。よくそれで通ってますね」
「アアアアアアアッ!!! ポリポリ イヤイヤ ミンミンミン!!!!!」
年下にマウントを取り返された悔しさからアトピーが悪化し、奇声を発しながら全身をかきむしるずんぺい。
「どうかしたかね?」
オフィスの中に重役室から出てきた重役らしき初老の男性が入ってきた。
「こいつオラの悪口を言ってきただで!パワハラだで!!」
やれやれまた始まった。周りの若い社員はびくびくしながら自分の作業に取り組む傍らで動向を見守った。
「君、ずんぺい君に何か言ったのかね?」
重役はS氏に問い掛ける。
実はこのようなやり取りは何回も繰り返されている。
ずんぺいは何かにつけてちょっと嫌なことがあると直ぐにわめき散らしては、パワハラパワハラと繰り返していた。
特に自分の地位を脅かさんとするS氏には何かと因縁をつけてはパワハラパワハラと糾弾した。
後輩にパワハラを受ける事がどれだけ情けないかも分からずに。
しかし、重役が出てきてしまったらS氏も凝縮してしまい自分が悪いとずんぺいに謝ってしまうのだった。
(アッアッアッ!!!オラには味方がいるだで!!年上に逆らうとこうなるって分からせるだで!!)
しかし今日は少し様子が違った。


「失礼します。」
S氏が重役室に入ると長机に数名の人物が並んで待ち構えていた 。
「S君、おめでとう君は合格だよ。」
重役の男が話しかけた。
「本当ですか!!??ありがとうございます!!!」
満面の笑みで喜ぶS氏。
長机の男が一人声ををかけてきた。
「おめでとう、早速だけど○○商事さんと○○工業さんが是非とも営業職に君が欲しいって来てくれてるよ」
「S君だったね、○○商事の○○です。君みたいなはっきりと人に物申せるガッツのある人材が是非欲しいです。」
「○○工業の○○です。同じく君みたいな人材が是非とも欲しい、何せ国定社会復帰者支援プログラムをクリアした方々はとても優秀と聞いています。」

国定社会復帰支援プログラム------
昨今の人手不足解消政策の一環で政府公認で執り行われている、無職・引きこもりの若者の社会復帰を支援するプログラム。
通常の引きこもり支援施設内で架空の職場を形成、労働訓練を行い、成功体験を重ねさせる事によって社会に対する恐怖や不安を和らげさせる。
ずんぺいは抜群に営業成績が良かった訳ではない、挫折をさせないように失敗する事が必ずないシミュレーションになっているのだ。

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「失注??冗談じゃねえヨォォォオォオォォヨォォォ↑!!!!!!」
ガイジシャウトで暴れるずんぺい。こんなのでも最後には絶対に売上を獲得できるのだ。
普通の人間なら馬鹿らしくて自慢しない。
「いやあ浜崎くんのところ、コスト高いでしょ?それじゃあ顧客が満足しないよ?」
「イヤイヤイヤイヤミンミンミンミンミンミン」


一通り話を終えたS氏、どうやら就職先は決めたようだ。重役の役割を演じていた初老の男性とS氏だけが重役室に残った。
「今までありがとうございました」
深々と頭を下げるS氏。
「S君、これからも頑張ってくれよ」
S氏の肩をポンと叩いた。
「そういえば、浜崎さんの事なんですけど」
重役が少し暗い顔になった。
「あの人も僕らと同じプログラム参加者だと思ってたんですけど、あれ今考えると演技なんですよね?」
「どこの会社にもいるアホで老害の嫌な先輩役の。だとしたら浜崎さんにもお礼を言わせてもらえませんか?」
重役はため息を交えながら話始めた。
「彼はね、5年前に始まったこのプログラムの第1回被験者、要するに1年生なんだよ」
「周りがしっかりと集団行動や、基本的なマナーを覚える中で彼だけはいつまでもあの調子なんだ」
「何ですって?それじゃあ浜崎さんはもう5年もここに?このプログラムだってタダじゃないですよね?親御さんは良くそんなにも……」
「彼の両親はもう彼を見捨てて音信不通だよ、それでも彼がここに居続けられるのは……」
重役は言葉に詰まった、言うべきか迷っているようだ。


「まあいいさ、このプログラムの売りは100%引きこもりを社会復帰させた実績なんだ。テレビでもやってるよね?浜崎君は確かにこのプログラム唯一の失敗例なんだ」
S氏も感づいたようだ。
「なるほど、浜崎さんを見放したら完璧な実績に傷が付くと」
「だから彼にはずっとここで居てもらうしかないんだよ、お上からも絶対に失敗例を出してはいかんとお達しがきているからね」
「でも確かに君の言った通り彼のお陰でストレス耐性がついた子達もいるからね、彼にはこの役割を演じ続けてもらうよ。」
重役室の扉を開けて両者は部屋から出る。
「さぁ君はもうここに来る必要は無いんだ。彼の事は忘れてこれからの君の人生を取り戻して欲しい。」
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「またまたクレームが来てしまいました。ほならね、自分が作ってみろって話でしょ?私はそう言いたい」

「私が仕事をしている間に御社は何をするのでしょうか、気になるところでスゥゥゥ」

「最近の若い人は根性がありませんねえ。もっと私みたいにドンと腰を据えて仕事…仕事に取り組んで貰いたいものです。アッアッアッアッアッアッアッ!!!!!」

ずんぺいはこの劇場で役割を演じ続ける。
架空の実績にに自惚れし、架空の客先にマウントを取り、次々と卒業していく自分より若い人々を見下しながら。

(オラはやっぱり持ってるで!これはオラの天職だで!)

自分の人生の幕が降りるその時まで。

おわり


735: 名もなきゾット帝国民 :2018/07/11(水) 08:30:50
劇場、良い感じだったで
必ず成功させてくれる場所でそれに気づかずマウントをとり続けるのがいかにも順平らしい

736: 名もなきゾット帝国民 :2018/07/11(水) 09:28:24
劇場を読んでて、ふと順平にゾッ帝を書いていることを吐かせた飼育員の皆さんのことを思い出した
順平がNo.1の実績を叩き出しているように思い込ませるスタッフの苦労を、ほぼそのままリアルで背負った人が居たんだなぁ…
心にもないことを言って自分を騙すのは辛かっただろう
きっと胃に穴が空く思いだっただろうな

737: 名もなきゾット帝国民 :2018/07/11(水) 11:39:42
トゥルーマンショーや劇場のようになったとしても、シャモさんは決して気づくことなく生涯を終えるんやろな
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/10596/1524068680/