syamugame
2068年、俺と従兄弟の洋平がそれを見つけたのは実家の片付けのときだった。
曾祖父母が亡くなった後、20年以上ずっと空き家になっていた広島の能美島の家を解体処分するというので、
実家の古い家財の処分にわざわざ自分たちが駆り出されたという訳である。
作業を開始する際、親父と伯母から変な注文がついた。
「封印の施された白木の小さい箱を見つけたら絶対に開けるな、すぐに知らせろ」というのである。
一体何のことかわからなかったが、一応心に留めておくことにした。

俺と洋平は蔵の担当になった。一番片付けるものが多いのだから、大学生二人が充てがわれるのはまあ当然だった。
片付けは順調に進み、昼過ぎには8割方蔵の荷物を出し終えた。すると、洋平が例のものを見つけてきた。
それは、骨壷を入れるような箱を小さくしたものに呪文のようなものが書かれたテープで封印されていた。

洋平「…予想以上に厳重だね」
俺「うん」
洋平「一体何が入ってるんだろ」
俺「よっぽど恐ろしいもんが入っとるんやろな。開けてみようか?」
洋平「いや、ダメだろ、おふくろとおじさんが怒るぞ」
俺「ちょっとだけや、丁寧にテープを剥いでちょっと中身を見るだけやって」

このちょっとした好奇心が恐ろしい騒動を生むとはその時思いもよらなかった。

俺は箱にはられたテープを丁寧に剥ぎ取り、恐る恐る箱を開けた。中にはサングラスが一つ。
俺「…グラサン?」
洋平「サングラスにしては大きいよね、眼鏡の上に掛けて使うオーバーグラスってやつじゃないかな」
洋平はそのオーバーグラスを手にとって眺めた。
洋平「うーん、特に変哲もないグラスだね」
洋平はグラスを自分の眼鏡の上に重ねて掛けた。その時だった。

洋平は一瞬ガタガタ震えた後、おかしなステップを踏み始め、
「ウィィィィィィィィィィィィィィィッッス!!!!」
と、突然奇声をあげた。奇声を聞きつけた親父と伯母さんが血相を変えて駆けつけてきた。
洋平「曲名!!千本!!桜!!ビャオ!!!!」
伯母「洋平!!」
伯母さんはすぐに洋平からオーバーグラスをとった。一方、俺は親父にグーパンされた。
親父「この大馬鹿野郎!!お前らは自分が何をしたのかわかってるのか!!!」
俺「…てぇ、わかるか!このクソオヤジ!!!」
俺が反撃しようとすると、婆ちゃんが遅れて蔵に入ってきた。
婆ちゃん「やめんさい!順一と洋平に何も話をせんかった私が悪いんじゃけえ!!」

洋平を布団に寝かせた後、婆ちゃんはこのオーバーグラスの呪いにまつわる話をした。
婆ちゃんには兄がいた。この兄というのが、高校を卒業した後、ろくに働きもせず、
アトピーがかゆいだのとガキのような言い訳をしながら、就活することなく毎日引きこもっていたそうだ。
そのうち、『兄』は、当時世界最大の動画サイトだったYouTubeに動画を投稿し始めた。
広告収入で生活しようという、当時流行っていたYouTuber生活を夢見てたという。
曾祖父ちゃん曾祖母ちゃん、婆ちゃんに婆ちゃんの姉、みんなYouTuber活動には反対していたが、聞く耳を持たなかった。
案の定、ろくに稼げなかったそうだが、『兄』だけは立派な社会人として働いているつもりだったらしい。

だが、結果的にその『兄』は大炎上を引き起こし、当時婆ちゃん達が住んでた大阪の貝塚の家に
変な連中がうろつくようになるという被害まで招いた。
その後も『兄』は改心することもなく、業を煮やした曾祖父ちゃんは広島に戻る際、
幾ばくかの金を与えて『兄』を置き去りにしていった。その後、『兄』は貝塚の家近くで野垂れ死んだらしい。
近所にいればそのうち帰ってくるとでも思ってたのだろうか?

それから十数年後、正月。婆ちゃんは子供三人を連れてこの家に帰省していた。
親父達は従兄弟らと一緒に遊んでいた。その時、一番上の伯父さんが例のオーバーグラスを見つけてきたという。

「なぁ、変なグラサン見つけたで、誰のやこれ」
「しらなーい」
「掛けてみて!掛けてみて!」

みんなに促されて伯父さんはそれを掛けてみた。
伯父さんは洋平同様、ガタガタ震えたかと思うと
突然、「ウィィィィィィィィィィィィィィィッッス!!!!」と奇声をあげた。
さらに突然ちんこをおっ立てながら「ほいじゃけんのう、ほいじゃけんのう」と、おかしな踊りをし始めたり、
声楽部にいた伯父さんとは思えないとても音痴な歌声で歌い始めたり、
机の上に置かれていたジュースを別のジュースと混ぜてオリジナルジュースだといい始めたり、
お菓子を何故か唸り声を上げながらすすって食べ始め、ボロボロこぼしてもお構いなし。

伯父さんは当時中3で、性格とても大人びてた子だったから、
突然幼児のような行動を取り始めた事に子どもたちは、怖くなり震えていた。
そして、伯父さんは「ほいじゃ、まったの~う」といい、外に飛び出してしまった。
婆ちゃんが伯父さんを発見し、グラスを取り上げたのは掛けてから3時間も経過した後だった。

ようやくグラスを取り上げた時、伯父さんのパッチリした目は糸のような恐ろしく小さな目に変化し、
歯が異様な方向に曲がり、そのせいで口がまるでくちばしのようになり、
さらに顔が微妙に曲がっていた。そしてすべすべしていた肌はアトピー肌になっていた。
婆ちゃんいわく「あの馬鹿兄そっくりの容貌になっていた」らしい。
知能も大幅に低下し、小学校低学年レベルの簡単な計算すらできなくなっていたという。

伯父さんはすぐに病院に入院したものの、治癒することはなく、今もなお、施設に入所している。
病気の伯父さんの存在は知っていたものの、まさかそんな事があったなんて…

婆ちゃんはオーバーグラスに原因があると見て、著名な霊能力者に依頼した。
その結果、グラスに凄まじい怨念が込められていることが判明した。
曾祖父ちゃんに捨てられた『兄』がこの世を去る際に強力な呪いをこのオーバーグラスに残した。
その呪いとは掛けた者を『兄』と同様の存在にしてしまうというものであった。

更に霊能力者が言うには、このグラスは捨てようが壊そうがこの家の何処かに元の状態で復活するという。
解呪するには呪いが弱まるまで2,30年待ち、更に『兄』の供養をしておく必要があるという。

仕方なく、グラスは放置され、子どもたちの間で『絶対に触ってはいけない』というタブーが出来た。
婆ちゃんはその間に、無縁仏として葬られていた『兄』の遺骨を引き取り、能美島の墓に改葬した。
(曾祖父ちゃんがあいつと一緒の墓に入りたくないとゴネたらしいが、
曾祖母ちゃんに「子孫が代々呪われ続けてもいいのか」と説得してやむなく同意したという。)

そして、今回の能美島の家の処分と一緒に、解呪式を行う予定だっというのだ。
婆ちゃんは一通り話し終えると、「順一、洋平、本当にすまんかったね、婆ちゃんを許してくれ」と謝った。

その後、洋平はしばらく呪いの影響で若干の知能の低下と軽いアトピーに苦しんだが、
幸いにもどちらも程なく完治した。
20年以上がすぎ、呪いの効力が弱まっていたことと、
洋平がグラスを掛けていた時間は長く見ても1,2分程度だったので呪いも軽く済んだのだろう。
不幸中の幸いだった。

「オーバーグラスの解呪式は滞りなく終了、以後、あの奇妙なオーバーグラスは
我が家にも、洋平の家にも、はとこたちの家にも二度と出てくることはなかった。」

そして月日は流れ、2084年春。家族で団らんの一時を過ごしていたときのことだった。
娘が「お父さん変なサングラスを見つけたー」と言ってきた。
私はすぐに娘からグラスを取り上げようとするも、無常にも娘はそれを掛けてしまった…
(おしまい)
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