syamu
ある日、妹からラインが送られてきた。
『ねーちゃん今いい?』
『どったの?』
『順平のバカがネットで炎上してるの知ってる?』
『えっ…なんなんそれ…』
『実はかくかくしかじか』
『最悪』
『とりあえずあいつを止めんと、お父さんとお母さんに電話で言っといて、あたしも説明するから』
『わかった』

私は2chのYouTube板のSyamu_Gameと書かれたスレにアクセスした。
そこではSyamu_Gameという人物に対する批判、罵倒、中傷が溢れかえっていた。
本当にこれがうちのバカ兄なの?
私はYouTubeへのリンクを踏んだ。そこに映ったのは、サングラスを掛けて目は見せないでいるものの、
曲がった顔、汚らしい肌、イライラする喋り方のキモい声、時折口をモゴモゴさせるキモい癖、
知性をまるで感じさせないトーク、間違いなく貝塚にいるバカ兄だった。
あいつyoutuberなんか気取ってたの!?

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お姉ちゃんに電話して数日後、昼に順平が何も知らず外出したのを見届けてから
母に順平が炎上している動画を見せた。口で説明するより実物を見せたほうがよく理解できると思ったからだ。
温厚な母も流石にこれにはカンカンだった。
「あの子働きもしないで何してるのかと思ったらこんな事を…ウゥッ…」
「とにかく辞めさせないと!このままじゃあたしたち破滅よ!」

順平が帰ってきた。相変わらず呑気そうな奴だ。殺意が湧く。
「順平、話があるんやけど」
「後にしてや、あとあと、今からパルム食べるんじゃけえ」
「そんな事こそ後にしなさい!!」
久々の母の怒声に順平はビビったのか、急に態度が小さくなった。
「あんたネットで炎上とかいう状態らしいけど、どういうことなん!!??」
「炎上シトラン…アンチガ騒イドルダケヤデ…」
「まいちゃんがあんたがインターネットで晒し者の笑いものになってるって言ってんのよ!」
「笑イモノニナットランワ…マイコガ嘘ツイトルンジャ…」
こいつこんな言い逃れが通用すると思ってんのか。いらっときた私も怒鳴った。
「おい、ええかげんにせえやこのバカ、何も知らんと思ってんのか?え?」
「オマエ妹…俺兄貴…」
「わけのわからん事言うな!!今すぐ動画サイトのアカウント全部消せ!!」
「ヤジャワ…ヤジャワ…」
「もうちょっとしたらお父さんも帰ってくるからね、お父さんにも怒ってもらうから!!」

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どうしてこうなった。わけわからんわ。なんでYouTuberを引退せんにゃいけんのじゃ。
俺がYouTuberやってるのは自分のためだけじゃなく家族のためや。
俺がYouTuberとして成功することで金を稼ぎ、家族に今までの償いをする、
それと同時に彼女を作って親を安心させる、完璧なプランのはずやった。
俺がYouTuberやめたら償いもできなくなるし、彼女ができなくなるかもしれないんやぞ、
それでもええんか。

しかし、母も妹も俺の言う事に聞く耳を持たなかった。
これだから女は嫌なんじゃ、男の夢に理解がないから。
「ただいまー」
親父が帰ってきた。
「お父さん、かくかくしかじか…」
母とまいこが悪意を込めた説明をした。親父の顔がみるみるうちに怒りを帯びるのを感じた。
「順平!!!!!お前どういうことじゃ!!!!働きもせず何してるのかと思ったら
インターネットの世界で家族に迷惑をかけとったんか!!!!????あ??????」
俺、家族に迷惑かけてねーわ。俺は必死にYouTuberとしての活動は大切な仕事であることを説明しようとした。
だが、説明すればするほど親父は怒り狂い、俺を怒鳴った。親父もアンチなんか?

「順平、今すぐアカウントとかいうものを消せ!消さないんならこの家から出ていけ!!」
それは困る、30歳でホームレスなんかになりたくない。その時、俺は名案を思いついた。
ツイッターのアカウントだけ消して消したよといえばいいのだ。
ツイッターのアカウントは後で復活もできるし、新規取得して逃げるという手段もある。
俺は自分の頭の回転の良さに我ながら惚れ惚れした。にしし。
「…消シタヨ、コレデエエンジャロ」
「おい、YouTubeとニコニコ動画のアカウントは?
何ツイッターだけ消して終わりにしようと思ってるんや、そっちが本体だろうが」
「ケ、消シ方忘レチャッタ…」
「じゃああたしが消す、どけ!!」
「ヤジャ…ヤジャワー…」
「お前のせいで家族みんなに迷惑かかってんだぞ!!はよどけ!!」
「迷惑カケテナイ…俺迷惑カケテナイ…」
「うっさいどけ!このクソ馬鹿!!」

押し問答の末に妹が強引に席を奪い動画サイトにアクセスしてアカウントを消し始めた。
なんで俺だけこんな目に合わなきゃいけないんだ、そうだ、いつもそうだ、子供の頃から俺は不幸の星の下にいた。
俺だけアトピーを患った、いじめられた、ヤンキー高校に行かなきゃいけなかった、
職場では俺だけ日常的に怒鳴られた、そしてこの家でも俺だけ迫害されている。
おまけに嫉妬に狂ったアンチ達によって俺はネットでもリアルでも追い詰められている。
なんで俺だけこんなに不幸なんだ、ええい、誰か何とかしやがれ!!!!!

俺が営々と築き上げてきた全てが一瞬のうちに消え去ろうとしている。
俺の4年間は一体何だったんだ。
妹がYouTubeのアカウントを消そうとしているのを見て俺は怒りに震えた。
俺は妹の後頭部を必死に叩いた。
「ヤダ!!ヤダ!!ヤメテ!!!」
「何をしよるんじゃ!!このバカタレが!!」
親父に取り押さえられた。
「…父さん母さん、終わったよ、あとバカは死ね!!痛えんだよ!!」
「お疲れさん。おい順平、今日は許したるわ。二度とYouTubeとかいうのをやってみろ、
今度こそ家から叩き出すからな、わかったか!!」
「ア、アイ…」
「あとこのウェブカメラとかも捨てとくから。邪魔だったんだよね。
あとはテレビと繋いでるキャプチャーボードとかあいつが動画制作に使ってた機材も捨ててやろう」
機材もほとんど処分されてしまった。畜生…

それから3ヶ月あまりの月日が過ぎた。
暇つぶしにネット小説を読んでいた俺の頭に名案が思い浮かんだ。
俺も小説家になろう。このサイトからは作品が書籍化した人達がいっぱいいるみたいやし、
頑張ればここからプロの小説家になれるに違いない。
印税を稼げれば家族への償いもできるし、俺も腹いっぱいパルムを食べられる。
もしかするとYouTuberにも復帰できるかもしれない。
見てろ家族め、見てろアンチめ、見返してやる。
ああ、これから忙しくなるなぁ。俺は期待に胸を膨らませながら小説の構想を練り始めるのだった。
(おしまい)
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